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菅原 瑞穂(あんじゅ)
お酒と酒の肴をこよなく愛するコピーライター。言葉の面から地域活性化やジェンダーフリー、保護猫活動に関わる。江戸川乱歩で一番好きなのは『芋虫』。二つ名はあんじゅ。火曜日だけの立ち飲みバー「革命」(六角橋商店街)の店主でもある。
同じライターの記事一覧関内の街の一部としてすっかり溶け込んでいる「杯一食堂(ぱいいちしょくどう)」。お昼はいつも常連さんで賑わうこのお店は、前のオーナーの時代を数えると24年間も今の場所で営業を続けている立派な老舗。
料理人であるお父さんを厨房で手伝いながら、夜になるとホールでにこやかに接客してくれるのが店の2代目、杜 学洲(と がくしゅう)さん。常連さんからは「学(がく)くん」の愛称で親しまれる彼は、自分が好きな中国のお酒についてとにかく嬉しそうに説明してくれるので、お酒が好きなお客さんはついつい杯を重ねてしまうのです。
中国・広東省生まれの学洲さんが日本に来たのは5歳の頃。お父さんが中華街のお店で働くことになって、一緒に日本に引っ越してきました。
「父が独立することになった頃、ここの前のオーナーが店をやめることになって居抜きで入ったんです。名前を変えるか悩んだけど、結局は杯一のままで」
「ずっと中華街の方に住んでたから、ここらへんでお店をやりたかったんですよね。で、やってみるまで分からなかったけど、人通りもけっこうあった。中華街だと料理メインの店が多いけど、うちは料理屋さんってよりは飲み屋さんですね」
飲み屋さんとしての使い勝手の良さを意識している「杯一食堂」では、ビールやサワー、ワインなどいろいろなお酒が楽しめます。中でも品揃えに驚くのは紹興酒。さまざまな熟成年数のボトルがあるのに加えて、中華料理店でも珍しい甕出し紹興酒も手頃な値段で飲むことができるんです。
12年ものの紹興酒の甕。蓋を開けるとなんとも良い香りが…
「日本酒もおいてるから日本の人には喜ばれるけど、やっぱり紹興酒がお奨めだから日本酒に負けないようにしたい!甕出し紹興酒は12年も熟成しているから、ザラメを入れなくても甘みがある。お酒好きな人には3年もののボトルも人気ありますね。10分置くと風味が変わってくるので、ぜひやってみて。1杯で2度楽しめます」
そもそも店名になっている「杯一(ぱいいち)」という言葉からして、中国語で「ちょっと一杯飲んでって」という意味なのだそう。ランチは食べたことがあるけど夜はまだという方。今度はぜひ杯一で1杯やってみてください。
右から、3年もの、10年もの、30年もののボトル+化粧箱
「紹興酒は熟成するほど高価になるのでお祝いの席で飲んだりします。これは10年ものと30年ものだけど、30年のほうが値段が高くてパッケージがちょっと豪華。ボトルも可愛いから、飲み終わったあとにお花を挿したりしても」
学洲さんに奨められてはじめて白酒(パイチュウ)という中国北部の酒を飲んでみました。アルコール度数なんと56度。恐る恐る舐めてみるとカッと口内に刺激が広がります。でも、尖った味はせず、広がる芳香はお花を思わせ、風味もまろやか。こちらも紹興酒同様、熟成年数が増えるにつれ美味しさが増し、値段も上がってゆきます。
「以前結婚式で上海に行ったとき、お祝いだからすごく古い白酒が出たんです。たぶん100万円くらいする白酒。それを飲んで、寝て、朝起きたら、自分の口から白酒のいい香りがしたんです。熟成した白酒はそれくらい香りが高い」
「父は中国、広州で広東料理を修行し、その腕前を買われ横浜中華街にある老舗のオーナーに誘われて来日しました。だから、本格的な広東料理も作ることができるんです。今すぐじゃなくても、店を育てていって、僕もスキルアップして、ゆっくり、ちょっとずつでも、新しいことを生み出したいですね。インテリアもちょっとレトロな感じにしたりして」
安くて美味しくて、居心地の良いお店が今の「杯一食堂」。それはそれで大事に育てつつ、ちょっと良い食材を使ったり、コース料理を出したり、新しいことをやっていきたいと語ってくれた学洲さん。時間をかけてゆっくり美味しくなる紹興酒や白酒のように、あせらず、のんびりと、新しいお店作りに取り組んでいって欲しいですね。