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同じライターの記事一覧横浜スタジアム(通称「ハマスタ」)にもほど近い、関内のベイスターズ通りとみなと大通りの間の裏小路に「MazeMaze(まぜまぜ)」はたたずんでいます。この路地のことを「美食裏小路」と呼ぶ人もいるのだとか。確かに、高級しゃぶしゃぶ店あり、焼き鳥屋あり、隠れ家ワインバーあり、人気の居酒屋あり、と小さい路地に美食自慢のお店がひしめいています。そんな一角に「家庭料理とワイン・日本酒・焼酎」のさりげない立て看板が。ガラスの引き戸を開けると、いや開けるより前に「いらっしゃい、お待ちしていました」の声がかかります。店主の中尾美幸さんは常連客にも初めてのひとり客にも気さくに声をかけてくれます。
カウンターの上には小料理屋さながらに大皿料理が並びます。ワインも日本酒も焼酎もなんでもこい、洋食・中華・和食もなんでもある、店名さながらにいろいろな酒と料理と人が集っている「MazeMaze」の魅力をお話しします。
ちょっと「昭和感」のある関内の街に溶け込こんで
ここ「MazeMaze」は2022年12月に開店したばかり。まだ1年半ほどしかたっていませんが、すっかり関内の路地に溶けこみ、毎夕、常連客やふらりと訪れる客でにぎわいます。中尾さんがここ関内に店を開いたのはこんなストーリーが──。
当初からひとりでお店をやろうと決めていたので、カウンターだけの小さな店を考えていたところに、予定よりも大きかった「ハコ」の空き情報を得て躊躇したものの、「ここならいけるかも」と勘がはたらいて決断したのだそう。中区には昔ながらの横浜の独特の雰囲気があり、特に関内の街にはちょっと懐かしい「昭和感」があるのが、中尾さんには好ましく思えるのだそうです。
「ちょっとダサい店が理想なんです(笑)」と中尾さん。つまりそれは「気取りがなくて、居心地がいい店」ということ。「イタリアのバールのように。イタリアの街々では誰もが行きつけのバールを持っていて、その店に行くときっと誰かに会えて、飲んで食べておしゃべりして楽しい時を過ごすんです」。 バールの話はまた後で聞くとして、実際、「MazeMaze」には、40代から60代くらいの昭和世代がひとりやグループで集っていて、口々に「居心地がよくて、つい寄ってしまいます。ひとりで来てもいつの間にか隣のお客さんとお喋りしていたり」、「家庭料理にほっとしますね。美幸さんのワインの専門知識もとても頼もしいです」と話して、くつろげる居場所になっているようです。
目指したのはイタリアのバールやバーカロ
中尾さんが「いつか自分でバールをやりたい」と目指すようになったのは、さかのぼること 20年ほど前のこと、その希望をついにかなえるまでの道のりは──
出身は名古屋、小さい頃からの夢をかなえて小学校の教師になったものの、もっと広い世界を見たくなり1年間イタリアに旅立ちます。当初はバリスタ志望だったのが、イタリア各地のバールに通ったりするうちに、すっかりバールの魅力に取り憑かれて帰国。鎌倉のフレンチレストランのサービスとキッチン補助に入って、料理とワインの勉強を重ねてワインソムリエ資格を取得。もっとワインをしっかりと学びたいと、横浜・馬車道のイタリア専門のワインショップ「il calice(イル・カーリチェ)」のワイン卸部門に入社するも、1年後には関連店のイタリアワイン&バール「Clà (クラッ)」の3代目店長・シェフを任されることになります。こうしてまわりから与えられる役目を果たしているうちに「いつかバールを自分でやりたい」という目標はどんどん後回しになっていき、やっと実現できたのは2022年12月のことでした。
「特にヴェネツィア特有のバーカロみたいな店がやりたかったんです。いろいろな前菜やサンドウィッチがずらりと並んでいて、ワイン片手にわいわいとおしゃべりしながら楽しめるような、あんなふうに気さくで、店の誰とでも友だちになってしまうような雰囲気が大好きで」
バールやバーカロが理想というのは形からなのではく、その雰囲気や場づくりなのでしょう。中尾さんは「居酒屋でも、小料理屋でも、ワインバーでも、形はなんでもいいんです。あえてジャンル分けせずに、その人にとっての使い勝手がよくて居心地のいい場所になってほしいです」と話します。
「日本の家庭の食卓」のいろいろなおかずがずらり
名物のキーマカレー、ひとくちサイズにしてもらうと、「締め」にぴったり。
フレンチやイタリアンの料理人経験を持つ中尾さんがここ「MazeMaze」で提供するのは、「日本の家庭の食卓」をイメージした料理の数々。和食・洋食・中華なんでも出てくるのが日本の家庭の食卓の特徴なので。そして、「がんばれば自分でもつくれるけれど、ちょっとめんどくさいなと思うような、ひと手間がかかっている」料理を心がけているのだそうです。
関内地域には高級店も数多くあるけれども、毎日では飽きるはず。日替わりで品数を多くしているのは、毎日食べても飽きず、その日の気分で食べたいものを選んでもらいたいという思いから、だそうです。
親しまれる食卓と、本格的なワインバー、2つの顔を楽しむ
中尾さんは関内で働くようになって10年ほどになります。関内はどんな街と捉えて、お客さんを迎えているんでしょう。
「関内はビジネスホテルも多いので、出張に来て泊まっている人や、仕事で定期的に訪れる人、家族と離れている人、そんなちょっと味気ない日を送った人のためにも、ほっとくつろげる場所でありたいなと思います」
そんなふうに居心地のよい店を追求する一方で、中尾さんが最近新しく始めたこともあります。ワイン・ソムリエでもあり、ワイン業界に長く身を置いた経験もあるため、「家庭料理に合うワインだけではなく、もっと本格的なワインを深く味わってもらいたいと思うようになったんです」
それで、22時以降をバータイムとすることにしたのです。22時になると、照明を落としてぐっと大人の時間なムードに店内は転換し、大皿料理は下げる代わりに、チーズや「黒毛和牛のローストビーフ」などバータイム限定のおつまみを提供しています。
狙いを定めた昭和世代の客層の好みをしっかりとつかまえて、気さくな顔で親しまれながらも、時には本格的な要望にも応えてもうひとつの顔でも魅了する、すっかり横浜・関内のバールとして愛されている「MazeMaze」がここにありました。
Shop info/店舗情報
- MazeMaze(まぜまぜ)
- 住所
- 横浜市中区太田町1-16 LA IPSE 1F
- 営業時間
- 16:00〜24:00
- 定休日
- 不定休
- 備考
- 最寄り駅:JR関内駅より徒歩約6分、みなとみらい線日本大通り駅より徒歩約5分 席数 カウンター8席、テーブル10名まで