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がんばるのに疲れたら、日常の幸せと共にかみしめたい母の味「鴨志田惣菜店」岡本麻希子さん
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    ToyaMiho

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    鴨志田惣菜店は、東急田園都市線「青葉台駅」からバスで約7分の閑静な住宅街の中にあります。「中谷都」を降りて5分ほどいくと、渋い毛筆体で店名が書かれた青い軒先が見えてきました。

    一歩足を踏み入れると「惣菜店」のイメージとは対照的な今どきのオシャレな空間。奥の厨房から出てきた女性もまた洗練された雰囲気が魅力的なオーナーの岡本麻希子さんでした。

    岡本さんは肩の力が抜けていて、私たちと同じような普通の価値観を持つママ。惣菜店を始めたきっかけは「無収入でいるのが不安だから。」料理を仕事に選んだのは「それくらいしか自分の中に蓄積されたものがなかったから。」何か大きな使命感を持ってこの仕事を始めたというよりも、消去法で選んだと話します。

    「料理は好きでしたが、体系的に学んだことがあるわけではありません。素人がお店を始めるんだから、うまくいかなくて当然。消えちゃっても誰も気にしないだろうし、まずはやってみようと思って始めました。」

    そう謙遜する岡本さんが作るお総菜は、一口食べた瞬間、思わずニヤけてしまうほどのおいしさ! その味にほれ込んだリピーターが足しげく通い、人通りが少ないこの場所で10年以上、愛され続けています。

    「お客さんに必要としていただいて、続ければ続けるほど責任感を感じるようになりました。」そう話す岡本さんの軌跡を辿っていきましょう。

    住宅兼店舗だから始められた。小学生ママの「人生をかけない」挑戦

    岡本さんは静岡県出身。どちらかといえば優等生タイプで、お店のオーナーになるとは誰も想像しないような学生だったといいます。

    「母が家庭科の教員で農業高校に勤めていました。家でケーキを焼いてくれたり、文化祭では生徒と一緒に手作りクッキーを販売したり。両親が共働きだったこともあり、私が学生の頃から家族みんなで料理を分担していました。だから自然と食に関心を持てるような家庭環境だったかもしれません。」

    その後、岡本さんは大学進学を機に上京し、卒業後23歳で結婚。転勤族の旦那さんと共に横浜、名古屋、大阪を経て、2010年頃に横浜に戻ってきたといいます。

    「一軒家の賃貸で探していたところ、偶然、1階が店舗のこの物件と出合いました。当時は空き店舗でしたが、自分がお店を始めるなんて全く考えずに住居契約のみで住み始めました。」

    カウンターとテーブル席がある店内。お惣菜のワンプレートや、ドリンク、デザートもいただけます。

    カウンターとテーブル席がある店内。お惣菜のワンプレートや、ドリンク、デザートもいただけます。

    しかし、その翌年には岡本さんは鴨志田惣菜店を創業。というのも、岡本さんはそれまで転々としながらも、働くことだけは継続。その過程で、長く取り組める仕事を見つけたいと感じるようになっていたそうです。そこで思いついたのが、得意な料理を生かした仕事でした。

    「ただ、どこまでできるのか自信はなく、子どもたちもまだ小学生だったので『人生をかけて!』みたいに始めるつもりはありませんでした。その点、ここなら通勤もないし、母親がずっと家にいる状態を作れます。この物件に住んでいなかったら、やっていなかったでしょうね。」

    背伸びすれば届くスモールステップで、試行錯誤を継続

    こうして鴨志田惣菜店を創業した岡本さんは、常にお客さんの様子を観察し、声を聴きながら少しずつお店のあり方を変えてきました。

    創業当初は家賃がギリギリ払える経営状態が数年間は続いたといいますが、へこむことは少なかったと話します。

    「私がやっちゃってるんだから、当然だよねと。むしろ来てくれる人がいることに、びっくりしたぐらいで。私が作ったものをお家で食べてくれる人がいるんだと身の引き締まる思いでした。最初は自分が作りたいものを作っていましたが、お客さんが欲しいもの、買ってよかったと思えるものを作りたいと考え方が変わりました。」

    お惣菜に加えて簡単なお弁当の提供を始めると、お惣菜以上の売れ筋商品に。そこでお弁当のニーズが高いことに気づいた岡本さんはラインナップを拡充。今では日替わり弁当の構成から、その日の惣菜メニューを考えているといいます。

    「週に2〜3回来てくださるお客さんがいるので、毎日同じメニューにならないように心がけています。年中置いている定番は10種類程度で、残りの10種類は旬の食材を使った季節限定メニューと、偶然手に入った食材で作ったレアメニューです。」

    さらに、創業から2~3年を経て始めたサービスがデリバリーです。お家でのママ会の用途を中心に活用されていますが、コロナ禍で集まりが激減すると一時期は低調に陥ったといいます。

    「この頃からもっと広域のお客さんにもご利用していただきたいと思い、Uber Eatsを始めました。最初はぼちぼちでしたが、今ではUber Eatsの注文がかなり増えています。」

    また、創業当初からあるカフェスペースには、ソファー席の代わりにテーブル席を増加。高齢のお客さんが増えてきたため、食べやすさに配慮してのことです。

    そして今、岡本さんが水面下で挑戦中のサービスが、冷凍食品です。

    「家族に健康的なものを食べさせてあげたいという方でも、毎日、本気出して料理するのってけっこう大変じゃないですか。うちのお店は駐車場が多いわけでもないので、遠方から気軽に来れるお店ではありません。でも冷凍食品なら使っていただけることもあるかなと思って検討中です。」

    岡本さんは本当にサラリと挑戦される! そう筆者が驚くと「全然ですよ〜。これだって思いついてから、どれだけ経ったことか」と謙遜します。

    岡本さんの挑戦は、常に自然体。ちょっとした気付きをヒントに、背伸びすれば届く範囲でやり方を変え、長い目で見守る。共働きの母だからこそ、スモールステップで進むしかなく、足るを知ることができます。そうした心の余裕がお店を地道に継続する秘訣なのかもしれません。

    「今日はもう、あそこの総菜にしとこ!」そう言われる、第二の家庭料理でありたい

    そんな岡本さんが作る惣菜のこだわりは「香り」と「歯ごたえ」。食材そのものを生かすため、日々のラインナップは「旬」から組み立てられています。

    「今は葉物の質があまりよくない季節なので、ショーケースが茶色っぽくなっちゃって。緑の惣菜は人気なので売れるのですが、旬のものを使った方がおいしいし、結果的にお客さんに喜んでもらえると思います。」

    取材時の秋に旬のかぼちゃとさつま芋を使ったサラダ。色鮮やかで食欲をそそります。

    また、おいしさを一番に考えると、添加物の使用は岡本さんの選択肢に入りません。

    「添加物や消毒を使って大量に作るほど、どうしても香りや歯ごたえが失われていきます。うちは、ちょっとずつ作って出すというやり方で食の安全性を担保しているため、スーパーのような便利さはありません。その分、香りと歯ごたえは、できるだけ残したいなって思っています。」

    そうして作られる総菜は、副菜でも主役級のおいしさ。岡本さんの長年の料理経験から、素材同士や調味料の最適バランスが導き出されています。

    イートインで一番人気の「日替わりプレート」。この日は右からチキン南蛮、キャロットレーズンサラダ、レンコンとマイタケのバルサミコソース、おからのサラダ。

    「お弁当のすき間を埋めるためだけの惣菜は作りたくないなって。この枠にとりあえず入っている食べなくてもいいおかず、みたいな扱いになってしまうと、もったいないなと思います。副菜だって意味があるし、すごくおいしいのに。」

    こうして真摯に料理に向き合う岡本さんですが、家庭料理には絶対に勝てないと断言します。家族の好き嫌いや体調まで把握して出来立てで提供される料理は、一流シェフの料理並みに豪華なんだそう。

    「うちの惣菜が豪華なものではなくても、自炊にちょっと疲れたときに『今日はもう、あそこの惣菜にしとこ!』と言われる店になれたら嬉しいですね。」

    無理せず、意気込まずに、ちょっとだけ背伸びして。たまには、とっておきの惣菜で楽をしながら、スモールステップで歩んでいこう。お持ち帰りした岡本さんのチキン南蛮をおいしそうにほおばる子どもたちを見て、日常の幸せをかみしめて生きたいなと思いました。

    Shop info店舗情報

    鴨志田惣菜店
    住所
    神奈川県横浜市青葉区鴨志田町567−13
    営業時間
    11:00~19:00
    定休日
    日曜
    ヨコハマフードラバーズ装飾
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