- 元町・石川町
- その他
小林 璃代子
2000年生まれ、横浜育ち。 横浜市立大学で社会学を学ぶ大学生。人と人がつながるきっかけや受け継がれるものに興味を持ち、冊子制作、イベント企画などをおこなう。高校時代に商店街の人びとに惚れこみ、ローカルフリーマガジン「いきな下町商店街」を制作。現在は実験的な場づくりや地域のアーカイブをおこなう学生団体「下町編集室OKASHI」の代表として横浜橋通商店街を拠点に横浜の下町の楽しみ方を発信している。吉田新田が好き。
同じライターの記事一覧石川町駅すぐの川沿いに、なんと明治からの歴史を持つという老舗の和菓子屋「金米堂本店」があります。名物のどら焼きをはじめ、さまざまな手づくりのおいしい和菓子がショーケースに並びます。
4代目を受け継ぐのは金子伸司さん、弘美さんご夫婦。
ふと恋しくなるあの味、そして「あらー!こんにちは」といつもの笑顔で迎えてくださるあのあたたかい雰囲気を求めて、前を通るとつい立ち寄ってしまいたくなる、おすすめしたくなる、大好きなお店です。
地域の方々にとってここはどのような場所なのか、石川町の魅力とは何か、そしてこれからやりたいことについて、お話をお伺いしました!
お店の歴史
「私のひいお婆さんが寿町で明治25年(1892)に開業、関東大震災を期に今の場所に移ったと聞いています。昔ながらの和菓子屋です。私たちで4代目になります」
なぜ継ごうと思ったのですか?
「継ぐことは全然考えていなかったですね。学生時代も留学に行ったり好きなことばかりをやっていました。卒業後は保険会社に務めていたのですが、ふとお店の事が新しい目でみえたときに、お店を持つことって面白いことだなと思ったんです。
3年間務めたころに父に相談して、やりたいと思うなら学校に行って学びなおした方がいいということで日本菓子専門学校に2年間通いました。26歳の時です。そのあと三鷹の和菓子屋さんで働いていた時に、夫に出会いました」
和菓子づくりへのこだわり
「素材の美味しさを楽しんでいただくために、保存料や添加物を使わないようにしています。やっぱり入っているのと入っていないのとでは味が全然違うんですよね。一度食べていただいたら分かると思います。
その上で、なるべく出来立てのものをお出しすることも心がけています。特に大福などの朝生菓子は、柔らかくて美味しいうちに。基本的には朝作ったものをその日のうちに食べていただきたいです」
宏美さんにとって、石川町とは
「下町ですよね。小さいころも田舎だなと思っていました。(笑)週末には行商のおばさんが朝市をやったりチンドン屋が通ったりしていた記憶があります。
中学生くらいのときに中華街や元町が観光地として賑わいはじめて、みなとみらい線ができて。でもやっぱり開発されるのはみなとみらいの方なんですよね。石川町はすこし取り残されてしまっている感じがします。
でもそれがホッとするような親しみやすい良さでもあるのかもしれないですね。お年寄りの方も、『この辺は随分変わっちゃったけどここは安心して買いにこれる』と来てくださる方も多いので、頑張って居続けないとなと思います」
どのようなお客さんが多いですか?
「やはり地域の年配の方が多いです。
長居される方や、家でとれたミカンやフキなどをお土産に持ってきてくださる方もいらっしゃいます。うちの母が3年前に亡くなったのですが、ご近所の方やお客さんに良くしていたので、亡くなったときは本当にみなさん悲しんでくださって。お客さんがそのまま来てくださっているので、母はいないけれど、私たちは変わらず受け継いでやっています。それを途絶えさせないように。
最近は『おばあちゃんがよく買っていたから』みたいに世代交代で若い世代の方も来てくださっているんですよ!
若い人にも食べてもらいたいなと思い、いちご大福やバターどら焼きなど既存のものを多少変えて新しい商品も作っています」
お母様はどのような方でしたか?
「昔のおせっかいなおばあちゃんかな。(笑)
悪いことしたら『あんただめよそんなことしちゃ』とよく怒っていました。悪いことをしている子どもには叱るし、態度の悪いお客さんには文句をいったり。でも明るくて情があったので、励まされたという方もいました。なかなか今の時代に通用するかというのはあるけれど、小さいお店ならではのやりかた、そういうところも残しつつやっていきたいです」
石川町の変わらないお店
「食器屋の松本さんは老舗ですね。面白いおばさんがやっています。
他は結構変わってしまいました。
昔近くにあった洋食兼喫茶店「ニック」によく行っていました。豚の生姜焼きやナポリタン、デザートには銀のお皿にのったアイスクリームウエハースが食べられたりするところ。
子ども達が小さい頃は町内で日掛けという制度があったんですよ。木の箱に各店舗の貯金箱みたいなものがついているものに、毎日100円とかずつ入れてひとまわりしてさいごに郵便局に届ける。それぞれのお店の無理せず続ける貯金箱。うちの子どもが木の箱をニックさんのところに持っていっていたのですが、ニックさんががんばったからアイス食べて行きなさいって食べさせてくれていました。
いろりも先日なくなってしまいましたね。
でもフロリダさんみたいに、場所が変わっても意思を継いで新しい形でやっている方もいます。
ここだけで商売をするのは大変だけれど、最近は裏通りの飲食店も活気が出てきて変わってきましたよね!裏フェスは、改めてこんな飲食があるんだって知ることができるし、お互い仲良くなったりすることがあるので良い企画ですね」
これからやりたいこと、続けていきたいこと
「インバウンドには力を入れていきたいです。留学生の方々にもここでいろいろやらせてあげたい。コロナの前は留学生向けの教室などもやっていましたが、まだまだやれることが沢山あるのではないかと思っています。国際的な街でありつつも古臭さが外国の方にウケるらしいのでうまく残しつつやっていきたいです。
工場の雰囲気はあえて残してみたり、道具ももう買えないものもあるので、年季は入っていますが大事に使い続けてみたりしています」
最後に、個人的に好きな和菓子を教えてください!
「かしわもちの味噌あんが一番好きです。桜餅の粒あん、草団子なども好きですが、やっぱりかしわですね。ちなみに、食べ物ではハンバーガーが好きです。(笑)」
*
新しさを取り入れつつも、変わらずに受け継がれるものが確かにここにある。それは商品だけでなく、「店員とお客」以上のやり取りがときおり生まれるような、下町ならではのエピソードにおいても、垣間見ることができます。
肩の力を抜いて、ホッと一息。
「帰ってきた」に近いあのあたたかく落ち着く感覚と歴史ある味を、ぜひおふたりに会いに行って、実際に楽しんでみてください!ここならではの味、お土産にもぴったりです!
Shop info/店舗情報
- ひらがな商店街
- 備考
- ネット販売:https://www.rakuten.ne.jp/gold/kinpeidou/
- SNS
- Webサイト