- 関内・伊勢佐木町
- 洋食バー・バル
菅原 瑞穂(あんじゅ)
お酒と酒の肴をこよなく愛するコピーライター。言葉の面から地域活性化やジェンダーフリー、保護猫活動に関わる。江戸川乱歩で一番好きなのは『芋虫』。二つ名はあんじゅ。火曜日だけの立ち飲みバー「革命」(六角橋商店街)の店主でもある。
同じライターの記事一覧飲食店の入れ替わりが激しい関内で16年目を迎えるバー「粋々(いきいき)」。熱心なファンがいる店主の中村さんは、話してみると飲食店店主に付き物のこだわりがあまり無いことに気付きます。
「メニューは15年書き変えてないですね。でも、パスタにしてもお客さんと相談して決めることが多いかな。赤か、白か、透明か、ってね」
つまり中村さんはその日店にある食材を使って、お客さんの好みに合わせてさまざまな料理を作ってくれるのです。まるで漫画『深夜食堂』みたいですよね。
「食べたいものを雰囲気だけで言われると困っちゃうんだけど。それでもできるだけ合わせて作りますよ。お豆腐料理でも、グラタンでも。和食も洋食も、どちらも作れます」
若い頃から飲食に携わってきた中村さん。料理の腕は20歳で働き始めた東戸塚の居酒屋と、その次に勤めた石川町のバーで磨きました。
「18、19くらいの頃から飲食の世界にいたから…いつかは独立するだろうなとは思っていたんだけど」
転機が訪れたのは29歳の時。勤めていた石川町のバーが閉店してしまったことで、自分のお店をオープンすることに。
「30歳に差し掛かった頃で、さぁどうしようって…。まぁ、資金もある程度貯まってたから、自分で店やろうかってことになって」
15年変わってないというメニューにはイギリスのパブ料理フィッシュ&チップスが載っています。棚にはThe Beatlesのアルバムが飾ってあったりもするので、イギリスがお好きだったりするのでしょうか?
「開店当初はイギリスっぽい感じにしようと思ってたこともあったけど、そういう感じはならなかったなあ…笑」
何も押し付けないのが中村さんのスタイル。「お客さんから1杯貰おうとするのもなんかイヤ」ということで、営業中はご自身のペースで薄めのハイボールを作り、飲みながらお客さんと語らいます。
BGMに関してもお客さんに合わせてくれる中村さん。雑談の流れでBOOWY(80年代に活躍した日本のロックバンド)の話題になると、すかさず「BOOWY掛けましょうか?」と…(結局この日はBOOWYのCDが見つからず、ボーカルだった氷室京介さんのソロアルバムを聴きました)。
「CD掛けてた時期もあったんだけど、お客さんが求めてないのでかけなくなっちゃって」とのことで、現在はBGM代わりにテレビを付けておくことが多いそう。
コロナをきっかけに2年半くらい前にはじめたランチも人気の「粋々」。それぞれがメインを張れそうな蒸し野菜と焼き魚に、いくつかの小鉢、もち麦入りのご飯、お味噌汁が付いてなんと900円。焼き魚は定番の2種類(サバ、ホッケ)にいわしや鮭、秋刀魚といった旬の魚が加わって常時3種類揃っています。
「ランチで野菜ってなかなか食べられないでしょう。だから野菜をメインにしたんだけど、野菜だけだとご飯が食べられないから、魚もつけて。最初はピザランチをやろうと思ったの。でも1枚ずつしか焼けなくて、1枚焼くのに6−7分かかるから、提供が難しくてね。ご飯ならまとめて炊いておけるから。試行錯誤を経ていまのランチになってます」
「石川町から関内に移ってきた時、歩いてこれる距離なのに客層がぜんぜん違ってね。石川町は住んでる人が多いからみんな家から飲みに来て家に帰るけど、関内は勤め人が多い。これは難しいかなって思ったけど、なんとかなってます」
気を張らずにマイペースでお酒を飲んで、その日の気分に合わせて食べたいものを食べることができるのが「粋々」の魅力。音楽を聴きたければ掛けてくれるし(ただし、CDがあれば)、観たいテレビ番組があればお店で観てもいい。漫画が読みたい人は漫画を読んでもいい。そんな自由な空間で中村さんとの会話をゆるゆると楽しんでください。