- 関内・伊勢佐木町
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Masashi Soeda
同じライターの記事一覧馬車道にある、かつれつの老舗「勝烈庵」。世界的に著名な棟方志功画伯によるロゴマークと合わせて、ハマっ子なら誰もが知る名店です。
昭和2年(1927年)創業、まもなく100周年を迎えるこのお店を現在率いているのが、4代目の本多初穂さん。
笑顔が素敵な、そして、いつも周りの人を明るくする太陽のような方です。
そんな本多さんに老舗を引き継いだ思いや、横浜の街への想いを聞きました。
お店に飾られている棟方志功が絵付けした大皿の前で
お店を継ぐまでは色々な職業を経験
棟方志功の作品が多数飾られている店内
「お店を継いだのは、私が40歳の時でした。」と話す本多さん。
「ただ、それまではあまりお店を継ぐことを意識することはなくて、本当に自由に色々な職業に就いていたんです。」
横浜生まれ、横浜育ちの本多さん。学生時代は、元町のキタムラでアルバイトをされていたそう。また、浅草の貸しスタジオでもアルバイトをされていて、そのご縁で大学卒業後は演劇関係の職に就かれ、舞台やライブ、ホテルのディナーショーなどの裏方を勤められていました。そして、お二人のお子さんが産まれてからは、グループ会社の広告代理店で働かれていたとのこと。
「私は今まで自分でこの仕事をやりたいですと手を挙げたことは一度もなくて、その時々の頂いたご縁でお仕事をしてきました。」と謙遜しながらおっしゃいますが、その経験は今の糧になっているようです。
「今思えば、複数の業種を経験し、その業界特有の仕事の考え方や、非効率になってしまっている側面を色々と知ることができたことが、お店を継いだ後にも活きていると思います。」
味は変えない約束
定番の勝烈定食。四角い形は勝烈庵のトレドマーク。
「味を変えないということは、約束でした。」
お店の看板メニュー、カツレツはサクッとした食感と、脂っこさを一切感じることなく、ジューシーなお肉の風味が味わえるとても印象的な一品ですが、このレシピは創業以来変わらずに受け継がれているとのこと。
カツレツのパン粉は、グループ会社の馬車道十番館が焼いたパンの耳を切り落とした部分を使用。揚げ物に合う独自の配合で作られています。
お肉は柔らかく、肉本来の風味が楽しめる。
ソースも、野菜や果物をじっくり丁寧に2日間煮込み、さらに1日寝かせたものでこれも変わらず。さらに、しじみ椀も特製の黒味噌を使っていて、創業以来変えていないそうです。
ただ、100年近い間変えずいるということには相応の困難もあるとのこと。例えば、原料が入手できなくなったりするような事態もあり、都度乗り越えてこられたそうです。
変えられるものは、よりよく変える
一方で変えてよいものについては、ご自身の感性で色々と変えてきたとのこと。
お店に掲示しているメニューをあえてシンプルなものにしたり、多くの取り組みをされてきたそうです。
本多さんが知人の書道家に依頼して作成したメニュー
その中でも本多さんのこだわりが感じられるのが「お箸」。
それまでは塗りのお箸を使用していたそうなのですが、使っているうちにどうしても傷がついたり、欠けたりしてしまうため、そのようなお箸をいつまで使うのか従業員の間で議論があったそう。少し欠けただけですぐに廃棄してしまうのはもったいない、かと言って、出してもお客様に失礼になる・・・
そんな中で本多さんが見つけてきたのが「熊野古道の箸」。
世界遺産の熊野古道、その山林の杉の間伐材を使用して作られたお箸に切り替えられました。
熊野古道の間伐材を使用して作られたお箸
杉にしたのは、お客様がカツレツをつかむ際に負担にならないように、なるべく軽い素材でという配慮からとのこと。
そして、間伐材を使うことで、世界遺産にもなっている山林の保全に貢献するとともに、使い捨てではなく、持ち帰って水洗いして再利用できるものになっていて、サスティナブルな社会づくりに貢献したいという本多さんの思いが込められています。
箸袋の裏面には、お持ち帰りいただきご家庭で使用してくださいとの旨が書かれている。
この他にも、お茶をお茶殻のゴミが出ない粉茶にしたり、従業員の制服を変えるなどの取り組みもされてきたとのこと。老舗の味は徹底して守りながら、その他の部分は時代に合わせて柔軟に変化させていく、本多さんのそんな思慮深さを感じました。
地域活動は人生の宝
本多さんは、馬車道商店街協同組合の理事として、馬車道で行われる「あいすくりーむ発祥記念」や「馬車道まつり」といったイベントのほか、「ハマフェス」などの横浜のイベントにも深く関わっていらっしゃいます。
その仕事の範囲は、イベントの企画・運営だけでなく、建物のデザインの調整など、多岐にわたるとのこと。
馬車道商店街協同組合のHPより
お店の経営に加えて、まちづくり活動までご負担に感じることはないのかとお尋ねしたところ、
「このお仕事を通して、街の方と深く関われるようになり、仲良くなれたことは人生の宝です。」との答えが返ってきました。
「例えば、ライトアップのイベントを元町と馬車道でバラバラにやっていたことを時期を合わせてやろうよ、というようなことを調整したりしていると、誰に聞けば何が分かるというようなことが段々見えてきて、情報交換がどんどんスムーズにいくようになりました。その中で、これまで見えなかった、横浜の人のつながりが見えるようになってきて、それがとても面白いんです!」と。
筆者の経験からすると、このような調整の仕事は面倒なことが多い大変なものです。それを「面白いんです!」とさらりと言ってしまえるところに、本多さんのこれまでの職歴から生み出される対処能力の高さと、何ごともポジティブに取り組み、人をひきつけながら物事を進めていける人柄を感じさせられました。
人と地域を笑顔にする、本多さんの人柄
従業員の方も、本多さんと同じで皆さん笑顔が素敵。店内がとても温かい雰囲気だったことが印象的でした。(撮影時のみマスクを外していただきました)
「勝烈庵」は、100年近い歴史をもつ老舗で、100席以上ある大型店舗。
社長1人の力だけでは、とても運営できない状況の中、今も繁盛店であり続けているのは、従業員の方、地域の方と深くつながりながら、よりよい環境づくり、関係づくりができる本多さんの人柄があってこそなんだなと、強く感じることができた取材でした。
お店の角にある丹念に手入れされた植え込みからは、街や通りに対する心配りが感じられます。
老舗の味を守りながら、お店と地域のさらなる発展に向けてアクティブに活動されている本多さんの目線は、お店の未来、横浜の未来を見据えていらっしゃるようでした。
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勝烈庵 馬車道総本店
〒231-0014 横浜市中区常盤町5-58-2
営業時間 午前11時~午後9時半
(ラストオーダー午後9時状況により変更があります)
電話045-681-4411
FAX045-681-5272
Shop info/店舗情報
- 勝烈庵 馬車道総本店
- 住所
- 〒231-0014 横浜市中区常盤町5-58-2
- 営業時間
- 午前11時~午後9時半(ラストオーダー午後9時状況により変更があります)